25年後のセックス・アンド・ザ・シティ/キャンディス・ブシュネル著

読書のお時間

キャンディス・ブシュネルは1994~1996年まで The New York Observerに “Sex and the City” というユーモラスなコラムを連載しており、1997年にこれを纏めた同名の “Sex And The City (以下SATC)” を出版した。HBOがこれを原作としてTVシリーズを製作し、1998年から2004年迄、計6シーズンが放送された。その後2008年と2010年に映画化されている。主役だったキャリー・ブラッドショーは原作者のキャンディス・ブッシェルだと言われていたが、本人は否定している。本作の原題は “Is there still sex in the city?” で訳者(長澤あかね)はこれを「ニューヨークにはまだセックスできるチャンスはあるの?」と訳している。

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今回は50代になった原作者のキャンディスが主人公。彼女は離婚したが、幸いにも貯蓄があり華やかなニューヨーク生活から引退して田舎に引きこもる。そこで一旦は一人で生きると決意した。しかし、マリリン、サッシー、キティ、クウィニー、ティルダという同年代で独身の友人たちと相変わらず恋とセックスの話をしている。結局50代になった彼女たちがまだ恋愛を続けられるか否かを探求するゲームが始まる。

まず、出会いはSATCの頃と違ってインターネットにお手軽なデートサイトが沢山ある。ある編集者から実験的にデートサイトを使用した感想記事の執筆を依頼されTinder というサイトに年間$99の会費を自腹で払って入会する。色々と検索してみるが、2, 3人しかヒットせず、どうも良い感じの男が出てこない。あれこれしているうちに、対象年齢が55~75歳と設定されているのを発見し、これを22~38歳に変えてみると沢山のワカイシから反応があった。最近のワカイシは年上が好きなんだろうか?ポルノ映画のお陰で世の中が変わったようだ。「2007年、グーグルでのアダルト系での最多検索ワードは『MILF(ヤリたくなるほどセクシーなママたち)』」。訳者は上手い訳語を付けているが、MILFは “Mom I’d Like to Fuck” の略で年上の女性とか熟女を意味するようだ。彼女は年下とデートするかについて「恋に年齢は関係あるか」という永遠の難題に思い悩む。

ワカイシとデートするとなるとやはり、美容や服装が気になってくる。訳者も後書きで述べているが「モナリザ・トリートメント(レイザーを使った膣のアンチエイジング)」というものがあることを初めて知った。話は飛ぶが岸恵子が書いた「わりなき恋」という小説の中に年下の彼氏の為に医者に行くくだりがあるが、それはこれだったのかと妙に納得した。他にも、高価なフェイシャルクリームを売りつけられたり、試着室でシャンパンを飲むとか、この辺はSATCのドタバタ感を引き継いでいる。

キャンディスは第6章で「中年の狂気 (Middle age madness)」という言葉を使っている。「中年の危機 (Middle age crisis)」は主に40歳前後の男性がかかり、一般的に躁または鬱状態になるが、一種の通過儀礼と見做されているという。女性は「危機」でなく「狂気」になるらしい。貧乳だった友人のエスは「中年の狂気 」だからか、これを乗り越えるためか、豊胸手術を成功させ、そして結婚した。金のためだから、愛してるなんて感情は微塵もない。その後、夫がかなりの病気らしいと診断され、何となく嬉しいような複雑な感情があり、豊胸した胸が破裂するという災難にも見舞われ、それでもエスは「中年の狂気」からなんとか立ち直る。しかし、私はどうも、この辺りはピンとこないというか腑に落ちなかった。日本語で言うところ更年期障害であろうか。

SATCでは殆ど話題になっていなかったテーマが、親族の死、友人、知人の死、自死。やはり、年齢的にも避けて通れないテーマだが、死とそれに向き合う自分を淡々と述べている。

何しろ、あれから25年以上たって、ニューヨークのテロがあり、リーマン・ショックがあり、今は武漢ウイルスで苦しんでいる。「つまり、CITYはもう、あのCITYではなくなってしまったということ」と序文でジェーン・スーが書いているが、全くもって同感。この本を買う時、紀伊国屋のオネーサンに探して貰ってこの本を手に取った時、彼女に「SATCって知ってる?」と聞いてみたが、軽く「イイエ」と笑顔で答えてくれた。そりゃそうだ、知ってる訳ないよね。そんな中でその後のSATCを書いてくれて、昔の夢を思い出させてくれた著者には単純に感謝したい。本書のTVドラマ化権は既にパラマウントが獲得しており、来年にはその後のSATC、その後のキャリー・ブラッドショーが見られそうだ。

蛇足であるが、キャンディスがエリカ・ジョングと対談しに出かけるという場面がある。エリカ・ジョングは「飛ぶのが怖い」で一世を風靡した作家で、我々が良く使う「トブ」とか「トンデル」というのはこれが語源だろう。WIKIを見るとエリカ・ジョングは未だ生きている。知りませんでした。