映画「グリーン・ブック」のドン・シェリー

この映画はアカデミー賞を受賞したこともあり、ご覧になった方は多いと思います。黒人で金も教養もあり礼儀正しいピアニストのドン・シェリーがイタリア系白人で金も教養も無いが腕っぷしだけは自信のあるトニー・リップを当時 (1962) 未だ人種差別のきつかった南部への楽旅の為に運転手兼用心棒として雇います。南部の都市を演奏して回ると予想通り種々の差別にあいトニーが体を張ってドンを守りました。そんなドタバタの中で二人がお互いを徐々に認め合うという良いお話で、このストーリーは実話だそうです。尚、グリーンブックというのは当時黒人が宿泊できるホテルや黒人が入られるレストラン等を纏めたガイドブックのようなものです。


Tony Lip (運転手兼用心棒)と Don Shirley(ピアニスト)

ドン・シェリー(1927 – 2013)はジャマイカのキングストンに生まれ9歳の時に招待によりレニングラード音楽学院に留学しています。1945年にボストン・ポップス・オーケストラに招かれ演奏活動を開始しましたが当時のクラシックファンは黒人が舞台で演奏する事を受け入れず、ついに彼は挫折してしまいます。このため1953年にクラシックを諦め、黒人でも受け入れてくれるポピュラー、ジャズ音楽へ転向しました。

私は彼をこの映画で初めて知ったので音を探してみました。このCDは彼の”Don Shirley Piano (1959)”と”Don Shirley Trio (1960)”という二枚のLPを一枚のCDに纏めたものです。前者は一曲ごとに趣向を凝らしてはいますがジャズを弾くという意欲が少々空回りしている感じがします。後者は無理をせず素直にベースとチェロに合わせて歌いあげており、前者とは★一つの差がある感じです。南部への楽旅は1962年ですから、多分クラシック以外の演奏においても自己を確立し、自信も出てきた頃ではないでしょうか。そんな時に実際に差別を受けた彼の落胆は映画にも出てきますが、かなりのものだったと思われます。

ジャズのピアノトリオの始まりは戦後で当初はピアノ、ベース、ギターでした(例えばナット・キング・コールトリオ) が後にピアノ、ベース、ドラムスという編成が標準になります。しかし”Don Shirley Trio” ではピアノ、ベース、チェロになっています。やはりクラシックの人なので自身で編曲しやすいようギターの代わりにチェロを使ったのではないかと思われます。

このCDから二曲選んでみます。まず”Tribute To Billie Holiday”です。ビリーホリディが歌っていた ”Travelin’ Light” – “Don’t Explain” – “Easy Living” – “God Bless The Child”をメドレーで演奏しています。ビリーホリディへのトリビュートというとマル・ウォルドロンの”Left Alone”が有名ですが本曲はレフト・アローンの様に泣きまくらず、堂々と彼女へ語り掛けるようなリスペクトが聞き取れます。また、このメドレーの選曲がニクイ。彼女の一生を彼女が得意としていた歌をつないで表現しています。次は”By Myself”という小品です。一人になって自分だけ、という感情を非常にやさしいタッチで弾いています。

(1) Tribute to Billy Holiday
(2) By Myself

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