When 完璧なタイミングを科学する/ダニエル・ピンク著 勝間和代訳

「いつやるの、今でしょ」、「善は急げ」また千葉県松戸市には「すぐやる課」があったり、我々はこれまで早い事が良い事だと教えられてきた。しかし何事にも「坂本九とパラダイスキング」が歌うように「ステキなタイミング」があるようだ。これまでHow to(どうやるか)を説く書籍は多かったが、本書はWhen to(いつやるか)について膨大な統計データを詳細に分析し、ある種の結論を出している。

米国の研究者による調査では「ポジティブな気分は午前中に高まり、午後に落ち込み、夕方に再び高まる。」他の研究者グループの他の手法による調査でもほぼ同じ結果が得られている。これは人間の体内時計によるものと思われ、性別、国籍、人種に関わらず、ほぼ同じである。

図1 ピーク・谷・回復パターン

このグラフから;
●投資家やアナリスト向けの収支報告は午前中が良い。彼らが寛容になりやすいので、些細な事に突っ込まれる危険性も少なく、高評価が得られる可能性が高い。よって株価も上向く。どうしても午前中が無理なら夕方~夜が良いだろう。
●医療に避けられない誤診、誤施術は午後が多い。米国の麻酔医の誤施術の確率は午前中は1%であるが午後は4%で4倍になっている。訳者の勝間和代氏は「午後に病院と美容院には行かない。」と述べている。
●高校授業の時間割で数学を午前中に集中させたところ成績が向上した。

では、午後はどうすれば良いか?本書では「『論理的』判断はランチタイムまでに」、「集中力の落ちる午後は『ひらめき』の時間」としている。午前は数学のような論理力、午後はトンチクイズを解くような洞察力、ひらめき力が発揮される。

図1のパターンは誰でも共通であるがクロノタイプ(概日リズム)は人の睡眠により異なる。ここでは睡眠時間でなく睡眠の中間時間で分類している。例えば23時に寝て7時に起きる人も1時に寝て5時に起きる人も中間時間は3時である。この中間時間と図1のパターンを勘案すると効率の良い一日の行動パターンが現れる。

図2 ヒバリ型・第3の鳥型・フクロウ型

●ヒバリ型
分析的な作業、意思決定は午前中に行う。新しいアイデア生み出すのは夕方から夜が良い。
●第3の鳥型
ヒバリ型とほぼ同じ。人に感銘を与えるのは午前中が良い。
●フクロウ型
無理な早起きはやめる。午前中は洞察的な作業を行い、アイデアが閃くのを待つ。分析的作業、意思決定は夕方から夜が良い。

プロジェクトチームやスポーツ競技では始まりと終わりが重要視されるが、中間点も重要な意味を持つ。これまで進化論では何千年単位の時間の中で徐々に進化が進行していくものと思われていた。しかし最近の研究によると進化はその期間の中間点あたりで、突如大きく変化する傾向がある事が判明した。これは精鋭を集めたプロジェクトチームでも、納期の半分あたりまではさしたる成果が出ない。「中だるみ」である。ところが中間点でもう時間が半分しかないと気づくと切迫感が生まれ、達成目標と工程を精査し一気に突き進む。著者はこれを「おっと大変だ(もう時間がない)効果」と呼んでいる。MBAの学生をグループに分け、1時間でラジオCMを作るという課題を出したところ、どのグループも28~31分経過時点で「おっと大変だ効果」が発揮され、もっとも顕著な進展が見られたという。

人の幸福は50代で最低になるという調査結果もこの「中だるみ」と言える。この「中だるみ」を回避するためには
(1)中間目標を設定する。
(2)中間目標を公表する。
(3)中途半場なところで止める。
私はかつて(3)を実践したことがある。すなはち切りのいいところまでやらず、途中で放り出すように止めて(飲みに行って)しまうのである。ロシアの心理学者ツァイガルニクによれば「人は完了した課題より未完の課題をよく覚えている。」そうで、確かに放り出した仕事を再開したとき、割と簡単に過去の思考の延長線上に戻れた気がした。

本書はこれ以外にも、種々のタイミングに論及している。例えば初めてマラソンに出る人は29、39、49、59歳が多い。各年代の終わりにこれまでの反省と新しい世代へのチャレンジ意欲が急に出てくるそうだ。また、休憩の効用を統計的に立証している。イスラエルでは判事が受刑者との面接で仮釈放を決める。仮釈放が認められる確率は図1のバターンにほぼ同じで午後になるとかなり下がる。しかし午後に十分な休憩をとった後はその確率がかなり上がる事が分かった。このように様々なタイミングが統計的事実から説き起こされているため非常に興味深く、面白い一冊であった。

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