前田憲男 マエストロ・ワークス/前田憲男他

一つの歌曲(クラシック音楽を除く)には作曲者、演奏者/歌手以外に欠かせないのが編曲者。作曲は鼻歌を録音し、それを楽譜に起こせばOK。演奏/歌手は下手でも何でもやってしまえばOK。もし売れれば印税が入る。しかし編曲(しごく簡単に言えば伴奏)が無ければ商品にはならない。編曲次第で曲の味が変わり、それが売り上げにも響く。それ程大事な編曲であるが編曲者は殆どの場合、買取。要するに手数料しか入らず、いくら売れても印税は無い。

前田憲男は大阪の出身で高校卒業後上京。プロのピアニストとして演奏の傍ら独学で編曲をマスターし日本を代表する作編曲家として活躍したが、一昨年の11月没(享年86)。この2枚組CDは彼の代表的作品を集めたもので1枚目は彼が作曲したTVやアニメのテーマ曲、ヒットした歌謡曲「別れの朝」、「Mr.サマータイム」、「冬のリヴィエラ」、「約束」等々が入っている。2枚目は彼が編曲した曲(ジャズ)ですが最後に「アレンジの虎の穴」という編曲の妙を紹介した面白い音が2編あります。

この歌↓は前田憲男が編曲の面白さと自分の腕を見せる目的で誰でも知っている「聖者の行進」を例にとり、やりたい放題やってます。このややこしい譜面をスキャットも含めて完璧に歌っている森山良子は凄い歌手だと再認識させられました。歌の途中で前田が書いた有名なジャズメンのアドリブを歌ったりスキャットしています(これをボーカリーズという) 。「この広い野原いっぱい」とか歌っている時とは別人のようにスウィングしています。

聖者の行進/森山良子(歌)前田憲男(編曲)

<曲中のボーカリーズについて>
・フィドル/私には昔ニータカ、ニータカ、と聞こえてましたが、ここではニーニギ、ニーニギ、と歌っています。
・バンジョー
・トランペット
・トランペット/ルイ・アームストロング
歌詞を忘れたルイ・アームストロングが誤魔化してシャバダバなどと歌ったのがスキャットの始まりだそうです。
・クラリネット/ベニー・グッドマン
・トロンボーン/ジャック・ティーガーデン
・バイブラフォン/ライオネル・ハンプトン
ライオネル・ハンプトンはバイブを打楽器のように演奏しています。途中でハッハッハッと息をするところまで再現しており、ニヤリとさせます。
・ バイブラフォン/ ミルト・ジャクソン
ライオネル・ハンプトンと違い、これがモダンジャズだよと言わんばかりにスカした感じが良く出ています。
・テナーサックス/ソニー・ロリンズ
最後に「セント・トーマス」のフレーズが出てくるところはご愛敬です。
・テナーサックス/ ジョン・コルトレーン
コルトレーンまで出てくるとは思いませんでした。ロリンズとの違いが分かります。
・ベース/レイ・ブラウン
・ドラム/ジーン・クルーパ
昭和27、28年に来日し日本にドラム・ブームを巻き起こしました。この来日公演が無ければ石原裕次郎の「オイラはドラマー、やくざなドラマー…」も無かった筈。「シング・シング」のドラムが最も有名で私は「タンタンスタタン、スタタンタンタン…」と覚えていましたが、ちょっと違っているようです。
・ドラム/ バディ・リッチ
・ドラム/ ジョージ川口
彼は演奏同様、豪快な親分肌で松本英彦(ts)、中村八大(p)、小野満(b)らとビッグ・フォーを結成し大変な人気でした。ジョージ川口には面白い話が沢山ありますが機会があれば紹介します。
色んな人がボーカリーズをやってますがドラムをボーカリーズにしたのは世界を見回してもこれ以外にないでしょう。

次は前田憲男がアレンジの面白さとその腕前を十二分に発揮したアルバム「アレンジ虎の穴」から「枯葉」を素材にしてそれがアレンジによってどのように変化していくかを丁寧に説明しています。

講座編~音楽の歴史/枯葉を素材に~/前田憲男とウィンドブレイカーズ

同じく「アレンジ虎の穴」から。劇中音楽を録音する風景です。俺は現場でこんなに苦労してるのに、さっぱり儲からん、とぼやいているようです。彼は大阪人なので、大阪弁で二役やってますが、しゃべりは今市です。

実践編~劇伴の現場で~/前田憲男とウィンドブレイカーズ

昔、前田憲男や服部克久が編曲し、世良譲がピアノを弾き、伊東ゆかりやしばたはつみの歌でお姉さんたちが踊りまくる「サウンドインS」という番組がありました。自分は毎回夢見心地で見てました。こんな番組を作ってくれる人はもういませんかね。蛇足ですが、ジャケットの絵はとても素晴らしいんですが、左手にはコーヒーカップでなく、ロックグラスかシャンパングラスにして貰いたかったところです。