日本の「老後」の正体/高橋洋一著

時折、新聞、TV等のマスコミで「日本は1,000兆円を越える借金があり、このままでは破綻する。よって増税せざるをえない。」とか「少子高齢化が進みこのままでは年金制度が破綻する。よって現在年金掛金を払っている人は将来年金が貰えなくなる。」というような論説を見聞きするが、これらは嘘です。

著者は元大蔵官僚で現在は嘉悦大学教授。専門は数学で最近は「数量政策学者」と自称している。経済政策的にはリフレ(Reflation)派と呼ばれ、政府(財務省)や日銀の誤った経済政策を糾弾している。大蔵省在職時代、初めて日本国の貸借対照表を作り、現在でも引き継がれているので財務省のホームページを検索すれば誰でも見る事が出来る。

まず借金であるが、日本国が破綻するか否かは普通の企業と同様、その貸借対照表(バランスシート)を見れば見当が付く。日本銀行は日本国の子会社なので、連結すれば2017年度において日本国の純債務は約40兆円となり、殆ど問題ない。(但し、財務省ホームページの貸借対照表では日銀は連結されていない。)

本書180頁(2017年度)

年金は年金数理という理論で設計されている。これの肝は「その人が納めた保険料」=「その人が将来貰える給付額」。例えば20歳から65歳まで保険料を支払い、仮に平均寿命が80だとすると「その人が45年間納めた保険料の総額」=「その人が15年間で受け取る年金の総額」。よって平均寿命より長生きした人は得するが、早死にした人は損する事になる。(給付年齢前に亡くなった人が支払った保険料は年金支払いに繰り入れられる。)

内閣府の「高齢社会白書」によれば今後少子化が進展し、2020年には年金受給者一人を2.0人で、2040年には1.5人で支える事になる云々。よって、このまま少子化が進めば年金制度は破綻する事になる。しかし年金は人数ではなく、金額の問題である。保険金を支払う現役世代の減少率は0.5%/年程度であるから、この程度以上に賃金が増加すればそれに伴い保険料も増収となるで問題ない。 実際、アベノミクス開始以降失業率が低下し、労働力人口は増えており総賃金は増加している。一方最近、賃金は上がってない、上がるどころか下がっていると平均賃金を見て言う人がいるが、以下の様に平均賃金でみると間違いやすい。

昨年
Aさん  失業中 月給0円
Bさん  月給20万円 
Cさん  月給30万円     
この場合平均給与は(20+30)/2=25万円

今年
Aさん  仕事が見つかって 月給15万円
Bさん  少し賃上げして 月給22万円
Cさん  少し賃上げして 月給33万円 
この場合、平均給与は(15+22+33)/3=23.3万円 
三人とも今年の所得は増えているのに平均賃金は下がっている。

では、なぜ、誰がこのような誤った情報を流布するのか?まず第一に増税したい財務省。「社会保障」の不安を煽れば増税もやむなしという空気を醸成できる。金融機関も「年金が危ない」という考えが浸透すれば、さらなる投資や年金保険等の商品が売りやすくなる。実際、年金を受給しても2,000万円貯蓄が無いと危ないという説が世に出てから、金融商品の売り上げはかなり増えているようだ。

本書は数学の塊のようなマクロ経済学を出来るだけ分かりやすく説明するため、高橋先生が高校生と対話するという形式で構成されている。著者は常に定量的で、数値をグラフにして説明しているので分かりやすい。他にも財務省の嘘を糾す本やネット記事も多数あるが、本書は高校生相手という事で専門用語の意味、定義を丁寧に説明してくれている分だけ分かりやすい。(といっても難しいものは難しい)。本書では最後に私的年金の選択指南をしているが、イデコが良いという結論になっている。

小説と違い、新書の書名は編集者が決める事が多く、売らんがために老後の不安に対処するというような意味合いでこの書名を付けたと思われる。それは腰巻の惹句にも良く表れている。しかしながら本書の主眼はバブル崩壊以降、 所謂「失われた20年」の間、デフレが続き、経済成長が停滞したのは 政府(財務省)、日銀の政策の誤り である事を明確に指摘する事にある。

米中は順調に成長しているが、
日本は1995年以降停滞している。

2012年末の衆議院選挙で大勝した安倍首相はアベノミクス第一の矢として大規模金融緩和を実施するため、日銀総裁に黒田東彦氏、副総裁に岩田規久男氏を起用した。これに対し著者は「(中略)この日は、日本経済にとって歴史的転換点であり、私にとっても忘れられない日となった。日銀が本当の意味で変わった日になったからね(後略)」と喜びを率直に披歴している。アベノミクスを悪く言う人は多いが、定量的にきちんと見て行けばかなりの成果が出ていると言える。惜しむらくは10%の消費増税であった。