パスタぎらい/ヤマザキマリ著

洋食で何料理が好きですか?と訊かれたらイタリア料理と答える人が多いんぢゃないでしょうか。私もそうです。何故かと考えると昔喫茶店でシャカシャカとパルメザンチーズを掛けて飽きるほど食べたスパゲッティ(ナポリタンかミートソース)の記憶からでしょうか。余談ですが、イタリアにはあの丸い緑の筒に入ったパルメザンチーズというものは無く、著者は一時帰国からイタリアに戻る度に大量に買って帰るそうです。

ヤマザキマリ氏は17歳の時にフィレンツェに留学し、今年で通算35年になるそうです。その間、映画にもなった「テルマエ・ロマエ」が大ヒットし、一躍有名漫画作家になりました。彼女は貧乏画学生時代、ニンニク、塩胡椒、鷹の爪をオリーブオイルで和えただけの「アーリオ・オリエ・エ・ペペロンチーノ」というスパゲッティばかり食べていたそうです。材料費は20~30円。これに飽きた時は思い切って50円位出してトマトの水煮缶を買ってトマト仕立てにする。「フィレンツェに留学していた11年の間に、おそらくわたしは一生分のパスタを食べてしまったのかもしれない…」。パスタぎらいはこれが原因のようです。

イタリア料理と言えばオリーブ油。これを切らすと台所はパニック。慌てて近所のスーパーで買ってきても事件は解決しません。各家庭にはそれぞれ御用達のオリーブ油の味があり、違う種類では家族は満足できないようです。ちなみに小皿にオリーブオイルを入れ、パンに付けて食べているのを最近良く見かけますが、本来あれはオリーブ油のテイスティングなんだそうです。

ワインも当然地元産。「ポルトガルに暮らしていた時は、近所の酒屋やスーパーマーケットの売り場に置かれていた八割が、ポルトガル産のワインだった」。スペインのワインを飲んでみたくなり、それを買おうとしたら、ポルトガルに居るのにスペインのワインを飲むなと店のオヤジに叱られた。これはイタリアでも同じようです。

チーズもワイン同様その地域産のものしかなかなか手に入らない。子供の頃はチーズが嫌いだったが14歳で初めてフランスに行った時に臭いも味も強烈なチーズを食べさせられて卒倒しそうになった。あちこち訪れた所で地元のチーズを食べさせられ、今ではかなりきついチーズも平気で食べられるようになったそうです。「こうした経験を踏まえて考えてみると、美味しいと思えないものを無理やり食べるところから、『味覚の外交力』が始まり、寛容性が生まれるのかもしれない。」

イタリアのパンは美味しくないと言っています。一番おいしいのは日本のパン。イタリアには「フォッカチャ」というイースト菌で発酵させない薄く平たいパンがあり、これには塩気があり、表面にオリーブオイルが染み出したりして結構おいしいそうです。ピッツァはインドや中東で食べられている平たいパンやフォッカチャに具をのせて焼いたものです。私がイタリアに行った時にピザを注文したら、薄い生地で六等分に切れていません。周りの客を見るとナイフとフォークで器用に食べていました。彼らは具材の乗った中心だけを食べるので、縁はいらないんだそうです。尚、生地が厚いピッツァは貧しい地域で作られ、貧しいシチリア移民がアメリカに持ち込んだという説があります。

イタリア料理は日本人にとってはフランス程ではないにせよ、少々高級感がありますが、イタリアの食文化は非常に保守的です。日本でも地方によって独特の味噌醤油文化があり、地元の人がそれに固執しているのと同じ感覚なんでしょう。著者が一時帰国した時「貧乏パスタ」が千円以上で周りはワイングラスの足を持ってクルクル回しているのを見て、かなりの違和感を覚えたようです。それに比べ 何でも貪欲に食べる日本人はイタリア人に比べて「味覚の外交力」が強いといえそうです。これ以外に私が知りたかった欧米でのモツ料理についても面白い話がありました。