はるか/宿野かほる著

宿野かほる氏は「ルビンの壺が割れた」がデビュー作だが、その人となりは公表されず、いわば覆面作家である。今時、こんな売方をする新潮社はどうかと思うが、当然の事ながら、新潮社中瀬ゆかり出版部長がかなりの勢いで売り込んでいたので一瞬、読んでみようかと思った。しかし、これを読んだ作家の岩井志麻子氏の反応が芳しくなかったので止めた。

本書は宿野かほる氏の第2作で虎ノ門ニュースに出演している評論家の有本香氏が番組の中で紹介し、内容が今話題のAIという事で、思い切って読んでみました。

主人公の賢人は小学生の時に海浜ではるかという名の少女に出会い、それが初恋だった。その後二人は離れ離れになるが成人して偶然に再開し、目出度く結婚できた。しかしながら結婚後1年目にはるかは交通事故で死んでしまう。

その頃賢人は巷で天才プログラマーと呼ばれており、独立した後はIT企業の社長として好調な業績を維持していた。しかし、賢人ははるかを諦めきれず、AIではるかを再現する事を思い付き、人工知能、音声合成、画像解析の専門家を新たに雇い入れプロジェクトチームHAL-CAを作ります。

賢人ははるかとの結婚生活の中で二人の会話は殆ど録音し、映像も沢山残していた。これを元にチームははるかの性格、判断、音声や顔の表情を徹底的に研究し、5年の歳月を経てHAL-CAを完成させた。賢人はホログラムで浮かび上がるHAL-CAの出来栄えに満足し、何度も二人きりでHAL-CAと話し合ううちにすっかりのめり込んでしまい仕事も手に付かない状態となった。

賢人ははるかの死後、有能な秘書と再婚していたが、HAL-CAは自身で検索し、その事を知った。そしてHAL-CAは現夫人に嫉妬し始める。段々とその度合いが激しくなり、遂に破局を迎える。

AIが感情を持ち、AI自身で判断できるか?というのは大きな命題であるが、ここではHAL-CAがはるかの心情を完璧にシュミレートするだけでなく、なんと嘘をついてまで賢人をなじるという場面がある。AIが嘘を着くというのは想像しにくく、何か恐ろしいものを感じる。

ラストは少々後味の悪い結末であるが、私としては毒薬まで用意したのであるから、もっと後味の悪い形に出来たはずなのに、そうしなかった事に少々不満を感じる。

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