すごい葬式/小向敦子著

本書のモットーは「『ボケて死ぬ』のではなく『死ぬ前にボケをかます』」。臨終や葬式という悲しい状況に於いて如何に笑いをとるか?

過去に他人または自分の死や葬式を笑い飛ばすという話は洋の東西を問わず多数ある。

東海道四谷怪談の作者である鶴屋南北は文政十二年(1829)11月27日に没したが、自分の法要の詳細な台本を書き残し、翌年正月十三日に四十九日の法要を兼ねて葬式が行われた。寺の境内には茶店あり、萬歳の芸人ありで初春萬歳の盛大なパロディであったが一周忌には更に歌舞伎顔見世のパロディを催行するという念の入れようであったそうな。

エリザベス・テイラーは自分の葬式に15分遅刻したという。生前、彼女は遅刻の常習犯で、葬儀の開始を参列者に案内した時間より15分遅らせて始めるように遺言に書き置いた。自分の葬式にも遅刻しないと気が済まないというハリウッド女優魂を見た気がする。

関西の笑満亭橋鶴師匠の臨終を描いた中島らもの小説「寝ずの番」のエピソードは有名である。以下引用

「いよいよであろうと思われるとき、兄弟子の橋次が橋鶴師匠に『何か心残りはないか、やっておきたかったことはないか』と伺ってみた。すると師匠が『そそがみたい』と答えた。小説の語り手である『俺』こと橋太は、妻・茂子のそそを見せることにした。覚悟を決めた茂子が師匠の病床に上がり、師匠にまたがり、スカートをまくって見せた。めでたし、めでたし・・・となるはずが、感想を尋ねられた師匠が『そそやない、外が見たいというたんや』そう言い残し息を引き取る。」
臨終の場を想像すると、笑えます。

この他にも落語、川柳、狂歌には死を笑い飛ばす作品が沢山あり、ここで多数紹介されています。だがそれだけではなく、死に方に関する厳しい提言もあります。著者によれば地球人口約72億人の殆どが今後100年以内に死んでいくので火葬や土葬するための土地や設備、墓場も非常に不足するんだそうです。(そう言われるとそんな気がしてくる)また、AIやロボットの手を借りる事にもなり、これまでになかった色々な葬式の形態が提案されています。

著者はこのような話を纏めてGerontology(老年学)の研究を提唱しています。「個人と社会にとっての高齢化と死に関わる課題を、医療・心理・経済・歴史・哲学・文学・文化・芸術など学理的な視点から研究する。『加齢学』や『老人学』と和訳されることもある。」そうです。これを見るとなんでもアリという感じで、どんな学問になるのか検討が付きません。ところが、言いっぱなしにしないのが著者の凄い処でちゃんと18科目のシラバス(科目の紹介文)が用意されています。如何に科目名の一部を並べてみます。

No.1「笑いの医学的効果/老病死と笑い」
No.2「笑われても平気な心理学/間違いと失敗は笑うに限る」
No.3「ユーモアを生み出す語法/言葉遊びから学ぶユーモア・センス」
No.4「文学の中のユーモア/ユーモア自分史」
No.5「笑いのヒストリア/ユーモアの歴史」
No.6「笑って死ねるための法律学/笑える遺産の残し方」
という調子でNo.18迄続いています。著者は高千穂大学人文科学科教授ですが、実際にこういう講義をやっているのでは無く、こういう事をやりたいという強い気持ちが読み取れます。どこかの金持ちが出資してこういう講座を作ってくれたら、是非聴講したいものである。

本書の巻末には169件の参考文献と参考URLが列挙されている。URLの中には先日死去した桂歌丸と当代三遊亭圓楽が笑点でやりあう議事録まであり、実に研究の幅が広い。少なくとも老文人が訳分からん死生観を語るようなエッセイとは違うエネルギーを感じます。

コメントを残す