不倫/中野信子著

本書は「まえがき」によると「本書は不倫、そして結婚という人間同士の結びつきにまつわる謎を最新科学の目で解き明かしていきます。」とあります。まず結婚を論じ、それから不倫の問題と進むのが順序のような気もしますが、、、

この問題については「セックスと恋愛の経済学」(2018.6.19)での議論を紹介しましたが、著者がカナダ人なので日本人のデータがありませんでした。本書には日本での調査結果が色々と紹介されています。細かい数字は省きますが、日本人の不倫率は諸外国に比べかなり高いようです。また2011年と2000年の調査を比較すると不倫率はかなり増加しています。これらを総合すると「若者の草食化が指摘される一方で、既婚の中高年では異性との関係が積極的になっているようです。」

不倫とは一夫一妻制に反する、という事ですが明治以前は一夫一婦制という概念は明確ではなかったようです。明治に法律という形になった後でも妾を複数囲う人は多くありました。しかし、昨今の様に不倫がバレただけで物凄いバッシングを受けるという事は無かった筈です。では酷いバッシングを受けることが分っている現代でもなぜ不倫は無くならないのか?最新の研究により「ある特定の遺伝子の特殊な変異体を持つ人はそれを持たない人に比べて、不倫率や離婚率、未婚率が高い事が分っています。」これを持つ人を不倫型、持たない人を貞淑型とするとその比は概ね5:5だそうです。よって不倫は罪悪だと決めつけるのは「先天的に色素の薄い人に向かって『お前の髪が茶色なのはケシカラン!黒に染めろ』と強制するようなもので、場合によっては差別や優勢思想につながりかねません。」という事で、ここで結論が出てしまったような気がしました。

次に私は初めて聞いた「恋愛体質」という概念が説明されています。「ある人間の不倫のしやすさに影響を与える要因のひとつに『愛着スタイル』と呼ばれる資質があります。」このスタイルは「安定型」、「回避型」、「不安型」に分類されます。愛着スタイルは不倫遺伝子と違い後天的なもので、特に母子間のふれあいが重要な決定因子であることが様々な研究成果から詳しく説明されています。自分及び他人が何型かを考えてみるのも面白そうです。

不倫をする側でなく、バッシングする側の分析もあります。基本的にはひがみ、嫉みでしょうが、最近の週刊誌を賑わした不倫騒動を例にとり、不倫に対する心理が分かりやすく解説されています。

最後に面白いと思ったのは現代では恋愛が夢であり、恋愛→結婚→生殖という流れが至上のように思われていますが、この概念が定着したのはルネッサンス以降で、これもキリスト教の影響です。ギリシャ・ローマ時代にも勿論恋愛はありましたが、当時BLが差別も非難される事もなかったのはBLが生殖に結びつかない愛であって、これが最も純粋な愛と見做されていたからだそうです。これは腑に落ちる説明で、今後ギリシャ神話に材をとった絵を見る目が変わってくるような気がします。

本書の宣伝文句に「美人すぎる脳科学者による刺激的すぎる一冊!」というのがありました。ご本人は「私はそんなんぢゃ、ないわよ」と謙遜されるんでしょうが、腰巻の写真はヘアメイクもばっちり決まり、かなり「美人過ぎる脳科学者」を演出できています。このような写真を撮られた時のご自身の脳の働きを是非解説してもらいたものです。

 

温度音頭/三波春夫

毎日暑い日が続いていますが皆様如何お過ごしでしょうか。ここのところTVを見ていると今日は何処そこが39度、いやこちらは40度超えと朝から晩まで温度、温度で大騒ぎ。

やはりここは大御所三波春夫先生に御登場頂きましょう。由緒正しい「温度音頭」です。三波春夫大先生の御歌ですから、温度と音頭を掛けて受けを狙うというような下賤な考えは毛頭ありません。この歌を覚えて適正な温度というものを学んでいきましょう。

処で2020年の東京五輪マスコットの名前が「ミライトワ」と「ソメイティ」に決まったそうですが、何のこってすか、全く意味不明。こんな下らん事に係わってる暇があったら、早急に新しい東京五輪音頭の制作を進めるべきでしょう。一体東京五輪組織委員会は何を考えているのでしょうか?職務怠慢の誹りをまぬがれません。

言うまでも無く、1964年の五輪では三波春夫先生の「東京五輪音頭」という名曲が生まれました。今考えてみるとシベリア抑留で死線を彷徨った苦労はおくびにも出さず満面の笑みで歌いあげる三波春夫は今風に言えば本当のイケメンでありました。

トホホ度 ★★★★
お笑い度 ★★★
意味不明度 ★★★

はるか/宿野かほる著

宿野かほる氏は「ルビンの壺が割れた」がデビュー作だが、その人となりは公表されず、いわば覆面作家である。今時、こんな売方をする新潮社はどうかと思うが、当然の事ながら、新潮社中瀬ゆかり出版部長がかなりの勢いで売り込んでいたので一瞬、読んでみようかと思った。しかし、これを読んだ作家の岩井志麻子氏の反応が芳しくなかったので止めた。

本書は宿野かほる氏の第2作で虎ノ門ニュースに出演している評論家の有本香氏が番組の中で紹介し、内容が今話題のAIという事で、思い切って読んでみました。

主人公の賢人は小学生の時に海浜ではるかという名の少女に出会い、それが初恋だった。その後二人は離れ離れになるが成人して偶然に再開し、目出度く結婚できた。しかしながら結婚後1年目にはるかは交通事故で死んでしまう。

その頃賢人は巷で天才プログラマーと呼ばれており、独立した後はIT企業の社長として好調な業績を維持していた。しかし、賢人ははるかを諦めきれず、AIではるかを再現する事を思い付き、人工知能、音声合成、画像解析の専門家を新たに雇い入れプロジェクトチームHAL-CAを作ります。

賢人ははるかとの結婚生活の中で二人の会話は殆ど録音し、映像も沢山残していた。これを元にチームははるかの性格、判断、音声や顔の表情を徹底的に研究し、5年の歳月を経てHAL-CAを完成させた。賢人はホログラムで浮かび上がるHAL-CAの出来栄えに満足し、何度も二人きりでHAL-CAと話し合ううちにすっかりのめり込んでしまい仕事も手に付かない状態となった。

賢人ははるかの死後、有能な秘書と再婚していたが、HAL-CAは自身で検索し、その事を知った。そしてHAL-CAは現夫人に嫉妬し始める。段々とその度合いが激しくなり、遂に破局を迎える。

AIが感情を持ち、AI自身で判断できるか?というのは大きな命題であるが、ここではHAL-CAがはるかの心情を完璧にシュミレートするだけでなく、なんと嘘をついてまで賢人をなじるという場面がある。AIが嘘を着くというのは想像しにくく、何か恐ろしいものを感じる。

ラストは少々後味の悪い結末であるが、私としては毒薬まで用意したのであるから、もっと後味の悪い形に出来たはずなのに、そうしなかった事に少々不満を感じる。

ブラジル音頭/殿様キングス

毎年夏になると、今年こそはボサノバが来るぞ、と思いつつ全然来ません。ボサノバのルーツと云えるサンバも今一つかと思いきや、浅草のサンバカーニバルのお蔭か、リオ五輪の影響か、サンバは以前よりは盛り上がっているような気がします。

そんな事とは全く関係なく、何故か、サンバと音頭を無理やりくっつけ、タイトルも「ブラジル音頭」とした安直さが非常に心地よいです。歌はサンバなのに全く無視して、いつも通り、おさむちゃんがこぶしまくっているので、安心して聞けます。最近は盆踊りに浴衣姿のワカイシが増えているそうで、陽気で調子の良いこの曲はリバイバルするかも知れません。

トホホ度 ★★★☆
お笑い度 ★★★
意味不明度 ★★★

いとしのすっとこどっこい/青江美奈

この歌は以前のブログに取り上げましたが、そのブログが破壊され、復刻も出来ませんでした。しかし、この名曲を埋もれたままにするのは勿体ないので、再び取り上げます。

写真でも分かるようにCDシングルで写真も上手く、色っぽく撮れています。(何処に修正が入ってっているかは分かりません。)

青江三奈といえば「伊勢佐木町ブルース」のハスキーな歌声がウリですが、ああいう歌謡曲の外にジャズもかなり歌っています。この曲はジャズのバラードを意識した作りですが「すっとこどっこい」とは良いタイトルを付けたものです。

歌詞の中に「タウンページを広げて閉じて、どこに電話するやら」とあり、少々時代を感じます。電話帳をひっくり返してピンクの電話に十円玉をジャリジャリ入れてウジウジと話してた頃が懐かしい感じがします。

トホホ度 ★★☆
お笑い度 ★★☆
意味不明度 ★★

すごい葬式/小向敦子著

本書のモットーは「『ボケて死ぬ』のではなく『死ぬ前にボケをかます』」。臨終や葬式という悲しい状況に於いて如何に笑いをとるか?

過去に他人または自分の死や葬式を笑い飛ばすという話は洋の東西を問わず多数ある。

東海道四谷怪談の作者である鶴屋南北は文政十二年(1829)11月27日に没したが、自分の法要の詳細な台本を書き残し、翌年正月十三日に四十九日の法要を兼ねて葬式が行われた。寺の境内には茶店あり、萬歳の芸人ありで初春萬歳の盛大なパロディであったが一周忌には更に歌舞伎顔見世のパロディを催行するという念の入れようであったそうな。

エリザベス・テイラーは自分の葬式に15分遅刻したという。生前、彼女は遅刻の常習犯で、葬儀の開始を参列者に案内した時間より15分遅らせて始めるように遺言に書き置いた。自分の葬式にも遅刻しないと気が済まないというハリウッド女優魂を見た気がする。

関西の笑満亭橋鶴師匠の臨終を描いた中島らもの小説「寝ずの番」のエピソードは有名である。以下引用

「いよいよであろうと思われるとき、兄弟子の橋次が橋鶴師匠に『何か心残りはないか、やっておきたかったことはないか』と伺ってみた。すると師匠が『そそがみたい』と答えた。小説の語り手である『俺』こと橋太は、妻・茂子のそそを見せることにした。覚悟を決めた茂子が師匠の病床に上がり、師匠にまたがり、スカートをまくって見せた。めでたし、めでたし・・・となるはずが、感想を尋ねられた師匠が『そそやない、外が見たいというたんや』そう言い残し息を引き取る。」
臨終の場を想像すると、笑えます。

この他にも落語、川柳、狂歌には死を笑い飛ばす作品が沢山あり、ここで多数紹介されています。だがそれだけではなく、死に方に関する厳しい提言もあります。著者によれば地球人口約72億人の殆どが今後100年以内に死んでいくので火葬や土葬するための土地や設備、墓場も非常に不足するんだそうです。(そう言われるとそんな気がしてくる)また、AIやロボットの手を借りる事にもなり、これまでになかった色々な葬式の形態が提案されています。

著者はこのような話を纏めてGerontology(老年学)の研究を提唱しています。「個人と社会にとっての高齢化と死に関わる課題を、医療・心理・経済・歴史・哲学・文学・文化・芸術など学理的な視点から研究する。『加齢学』や『老人学』と和訳されることもある。」そうです。これを見るとなんでもアリという感じで、どんな学問になるのか検討が付きません。ところが、言いっぱなしにしないのが著者の凄い処でちゃんと18科目のシラバス(科目の紹介文)が用意されています。如何に科目名の一部を並べてみます。

No.1「笑いの医学的効果/老病死と笑い」
No.2「笑われても平気な心理学/間違いと失敗は笑うに限る」
No.3「ユーモアを生み出す語法/言葉遊びから学ぶユーモア・センス」
No.4「文学の中のユーモア/ユーモア自分史」
No.5「笑いのヒストリア/ユーモアの歴史」
No.6「笑って死ねるための法律学/笑える遺産の残し方」
という調子でNo.18迄続いています。著者は高千穂大学人文科学科教授ですが、実際にこういう講義をやっているのでは無く、こういう事をやりたいという強い気持ちが読み取れます。どこかの金持ちが出資してこういう講座を作ってくれたら、是非聴講したいものである。

本書の巻末には169件の参考文献と参考URLが列挙されている。URLの中には先日死去した桂歌丸と当代三遊亭圓楽が笑点でやりあう議事録まであり、実に研究の幅が広い。少なくとも老文人が訳分からん死生観を語るようなエッセイとは違うエネルギーを感じます。