セックスと恋愛の経済学/マリア・アドシェイド著 酒井泰介訳

著者はカナダのブリティッシュコロンビア大学の経済学教授で”Dollars and Sex”というタイトル(分かりやすいタイトルです)で彼女の講義を纏めたものです。セックスと恋愛に関する問題を経済学的知見を持って解くことが目的であり、そのため多くの調査、文献の検討を行い、問題の解と今後の見通しを記述しています。例えば娘を大学に行かせるにあたり親としては貞操が心配である。この場合どちらの大学へ行かせるべきか?
(1)男子学生の割合が多い大学
(2)女子学生の割合が多い大学
答えは(1)。何故か?「物価は需要と供給によって決定される」という原則が適用され(1)では男子学生数が多いため、需要過多となるので女子学生は安売りする必要が無い。(2)では逆に供給過多になり、女子学生間の競争が発生するため、どうしても安売りとなる。

こんな調子で恋愛、結婚、不倫、売春、離婚、LGBT等が論じられていく。各検討には米国とカナダのデータが使われており、これらのデータの中で重要な因子は学歴、人種、宗教、収入である。イケメンがブサイクかは定量的に表しにくいが、勿論検討の因子加えられており特にSNSの婚活サイトでは豊富なデータが収集できている。

米国やカナダのような学歴社会では学歴によって就職、ひいては生涯年収が決まってしまう。しかしながら大学の授業料は非常に高く、優秀であれば奨学金を得られるが、そうでない場合は我が家の収入を考えて進学を諦める場合も多い。十代の妊娠が白人と黒人では黒人、富裕層と貧困層では貧困層の方が多いが、これは大学進学の見込みのある女子高生は妊娠によって大学進学に支障が出る可能性があるため慎重になる。しかし、進学を諦めている女子高生はそのような抑止力が働かない。

米国で生徒の妊娠を防ぐため無料コンドームを配布した高校がある。しかし妊娠は増加した。著者は「初体験は経済学的に言えば固定費用を払うことと心理的に似たところがあります。(中略)学校がコンドームを置くようになると、純潔喪失の期待費用が下がり、すると短期的にも長期的にも性行動を促すようになるのです。学生たちは早く性体験に踏み切るようになり(短期的反応)その後もセックスをし続ける(長期的反応)のです。短期的にはコンドームの装着率が上がり妊娠率は下がるかもしれません。しかし、長期的な妊娠率は上がる可能性があります。コンドームはえてして間違った装着法をされるからです。」(ここで費用はコスト、すなわちリスクと読み替えると分かりやすい。)

その他に面白いのはネットの婚活サイトの調査。例えば女性は貧乏イケメンと金持ちブサイクの二者択一なら金持ちブサイクを選ぶ。では貧乏イケメンと金持ちイケメンではどちらが交渉成立しやすいか?答は貧乏イケメン。彼女達は金持ちイケメンの方が浮気の危険性が高いが貧乏イケメンは安心できると考えているらしい。

一般的に婚活サイトに登録する男女は、共に自身のプロフィール(身長、体重、学歴、年収等)をある程度盛る傾向があり、写真も少し若い頃の写りの良いものをアップする。婚活サイトではまず自分の理想とする身長、年収、学歴等をキーとして検索するため、まずはその検索に残る必要があるからだ。勿論検索する方も盛っているためお互い様だが、どちらもある程度自分の希望に合う人を探し出せる筈である。しかしながら、成立したカップルという婚活市場の平衡状態を調べると、男女とも当初に描いていた好み通りの相手と結婚しているとは限らない。彼らは結果的には自分と結婚してくれる相手と結婚している。要するに妥協の産物という事になります。(これ位の事は研究しなくても分かるような気がしますが)

これ以外に著者は今後の研究課題も提起しています。例えば好景気になると豊胸手術が増加する。景気後退局面には口紅がよく売れる。不景気な時は整形手術は高いので口紅を買う位にしておくという事らしい。そうであるならば不景気な時は買春を諦めてお手軽な性玩具が売れるのではないか?すなわち「性玩具の市場動向が景気の先行指標たりえるか?」という問題です。新しい研究が纏まれば彼女のホームページに公開される筈ですので、それまで楽しみに待ちましょう。

このように本書は統計的、経済学的手法により様々な問題を解き明かしており、結局セックスも恋愛も「費用対効果」の観点から説明できる事が良く分かります。

しかしながら、これらの研究は全て、米国、カナダでのデータに基づいて分析されているため米国ほどの学歴社会では無い日本ではどうなのか、が分かりません。巻末に約100件の参考文献がリストされていますが、この中に日本の研究成果は一篇もありませんでした。(一つだけ共著者に日本人らしき名前が見つかりましたが、本当に日本人かどうかは不明です。)もっとも日本人研究者が「性玩具市場動向調査」という名目で文科省に科研費を申請しても、通る見込みは無いと思いでしょう。

巻末にリストされている文献でインターネット検索でヒットしたものを少し眺めてみましたが面白いです。試しに本書の最初に引用されている文献を紹介しましょう。全文を引用する紙幅はないため結果を纏めたグラフのみを貼り付けています。タイトルは「男性の器官と経済成長:サイズが問題か?」

Westling, Tatu. “Male Organ and Economic Growth: Does Size Matter?”
Helsinki Center of Economics Research Discussion Paper, 2011

Figure 1は少々見にくいですが横軸を各国の平均男根長(cm)、縦軸をGDP($)としてプロットし、最小二乗法によって近似曲線を描いたものである。Figure 2は横軸は同じであるが、縦軸は1960年と1985年のGDPの比(伸び率)とし、近似直線を描いている。Figure 1によれば平均男根長が長すぎても短すぎても良くないようで13~14cm位の国がGDPが高いことが分かる。図より加、豪、ニュージーランドがこの範疇に入っている。日本は短いながら良く検討していると言える。Figure 2を見ると平均男根長が長い国は伸び率が悪く、短い国のほうが高い。平均男根長の短いアジア諸国が伸び率が高く長めのアフリカ諸国が低いという結果が出ている。この論文はまだDiscussion Paperという位置付けで、サイズとGDPの関係についての最終的な結論に至っていない。今後の研究が期待される。

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