孤狼の血/柚月裕子著

最近映画「孤狼の血」の宣伝がTVやネットで繰り返し放送されている。最初はボヤッと見ていたが、著者の柚月裕子が「『仁義なき戦い』なくしてはありえなかった作品」と述べているのを知って興味が湧いた。自分はヤクザ映画を沢山見ている訳ではないが「仁義なき戦い」には強烈な印象がある。著者はこれをレンタル店で借りて「世の中にこんな凄い映画があったのかと、脳天をかち割られるほどの衝撃を受けた」ので、すぐにDVDで「仁義なき戦い」全巻を購入したそうです。

本作は「仁義なき戦い」同様、広島県を舞台に県警のベテラン刑事大上(映画では役所広司)とその部下になった新米刑事日岡(松阪桃李)が架空の町である広島県呉原市で暴力団抗争を防ごうと必死の立ち回りを繰り広げる。そこに居酒屋の女将(真木よう子)が絡んでくる。大上は暴力団の内情を通じていると共に癒着が噂されており、日岡は大上の違法捜査に不服ながらもついていく。

このプロットは名作と言われる「県警対組織暴力」(笠松和夫脚本 深作欣二監督 菅原文太 松方弘樹 梅宮辰夫 佐野浅夫等)に倣っており、ここでは菅原文太が暴力団と癒着した刑事を演じていた。これは実録物であるが、本作は完全に創作である。全編に渡り、だれ場が無く、現場での捜査、組の事務所に乗り込んでの交渉、県警での取調べなど緊張感をもって進行していく。最終章近くになって県警の汚職が明らかになり「ナヌ!」最後に「エェ!」という意外な結末。著者の巧みな構成力を感じる。最後の2頁のプロローグも洒落ている。

DVDで初めて「仁義なき戦い」を見た女性が取材の賜物とはいえ、これだけのヤクザ小説を書けるとは全くの驚きである。広島県警内の上司と部下のやり取り、ヤクザ組織の構成や抗争、広島弁のヤクザ言葉等々大したものだと思う。

話は変わるが、昨年5月に広島県警で証拠として保管していた8,500万円が盗まれるという事件があった。どう見ても県警内部の犯行としか思われず、職員全員を虱潰しにあたればすぐに犯人を検挙出来そうなものであるが、未だに解決していない。この小説を読んで、同じ広島県警という事もあり、この事件をふと思い出した。