乙女の絵画案内/和田彩花著

絵画の入門書といえば殆どが大学の美術の先生が学問的、歴史的に系統立てて説明され、最も教科書的な敢えて言えばオジサン目線の解説となる訳です。

これに対し、最近は中野京子先生の「怖い絵」や「名画の謎」で、絵の中のパーツの意味、物語、エロさが解き明かされ、オジサン先生方と違って奥歯にものが挟まっていない解説で楽しめました。

そして遂に、オジサンでも無くおばさんでも無い、アイドルが書いた絵画入門書が出ました。キーワードは今や世界を席巻している”kawaii”です。最近の女子は文物をカワイイかカワイクないかで二分する傾向があり、この本では彼女がカワイイと思ったであろう20の絵が彼女視線で解説されています。

まず、最初にマネの「鉄道」が出てきます。パリのサン・ラザール駅の鉄柵の前に座る母と後ろ向きの少女が描かれています。彼女はこの絵によって、絵画に目覚めたと言っています。特に後ろ向きの少女の服がカワイイと早速キーワードが出てきました。

次はベラスケスの「ラス・メニ―ナス」です。この中で「人それぞれ、絵のどこに注目するかというのは違うと思いますが、私の場合、まずやっぱり『かわいい!』と思ったポイントに目が行っちゃいます。」と言って真ん中の少女がカワイイと感じたようです。この絵の解説は色々ある中で可愛いと思った人もいた筈ですが、堂々とカワイイと表現したのは始めてだと思います。

セザンヌやフェルメールの解説の中では、自分がモデルになって描いてもらいたいと如何にもアイドルらしい感想がありました。自分は少年の時分に絵描きになりたいと思った事がありますが、その時は多分こういう状況を想像し色んな美人モデルとのお付き合いを夢想していたのかもしれません。ここに実際に描いて欲しいというアイドルの証言がある訳ですから、自分の妄想もあながち的外れでは無かったような気がしました

意外にもアングルの「泉」が選ばれています。前向きの全裸の女性が左肩上に壺を持ち、その壺から水が流れ落ちているという絵です。19世紀央までは絵に筆の刷毛目を残すのは下手だとされており、アングルは完璧に滑らかに肌を描いています。思わず触って見たくなる程です。しかし彼女は「きれいすぎて人間じゃないみたい」だそうで、これに比べてセザンヌの裸女の方が人間らしく見え、アングルはまるで陶器のように見える。だからアングルよりセザンヌの裸の方が「生身の女性の裸をみているよう」で恥ずかしいそうです。この辺は自分と感覚が真逆なんですが、皆さん如何でしょう?

これまでの絵の本と違った感覚が全編に見られ、楽しい読み物でありました。新書でありながら、カラー写真のカバーを作って頑張ってますが、カバーの上に村上龍の意味不明な文句が入っています。これ見た途端に村上龍のゴツゴツした顔が思い浮かび、折角の綺麗なカラー写真が台無しです。有名人の名前を出せば本が売れるだろうという担当編集者の貧相な発想が如何にも残念です。